ナチュラルガーデンとは、もとはイギリスのガーデナーが提唱した、自然植物の本来の美しさを最大限に引き出し、なるべく農薬や化学肥料などに頼らずにデザインされた庭のことを指します。非幾何学的で、ある程度奔放に、人工物をなるべく使わないそのスタイルは、現在では数あるガーデン様式の中でも代表的なスタイルとなり、世界中の庭園や公園などでその概念が多く取り入れられています。
中之条花楽の里のガーデンは、人にも虫にも動物にも草花にも木々にも優しい、自然環境をそのまま生かした、国内でも珍しい本格的な大規模ナチュラルガーデンとして、業界内で高く評価されている庭園です。遊歩道にはウッドチップが敷き詰められ、区画や柵はなるべく枝や木で作り、 草花や木々はこぼれ種であらゆるところに拡散し、あるいは遊歩道から、あるいは階段の隙間から様々な植物が顔を出します。そういうものを敢えて細かく整備せず、自然本来の自然な営みを大切にした庭園です。また、エーデルワイスやコマクサといった高山植物が咲く石積みのガーデンがあり、標高1000メートルの高地に位置する庭園であることを思い出させてくれます。
寒い時季には花は何もありません。春には折れ枝が目立ち、夏になると虫が飛び交う中、雑草の多い遊歩道を歩き、ゆうに2メートルを超える植物の中をかき分け、秋には茂みから突然飛び出してくるキジのつがいに驚くかも知れません。きっとそれは、一年じゅう花で満たされ、美しく整備された花壇の間を、優雅に鑑賞して歩くことを期待している方々にとっては残念な体験になると思いますが、それでもナチュラルガーデンというスタイルがもたらす意味を、その自然との調和を、ひとりでも多くの方に感じ取っていただけるならば幸いです。
4月にも雪が降ることのある山の上の春は、5月にやってきます。
まだ枯草色が残る4月にはスイセンやムスカリが真っ先に顔を出し始め、5月に入ってから、雪で覆われた白銀の世界を、ジューンベリーやユキヤナギの純白の花が引き継ぎます。同時期にハナモモが鮮やかな「源平咲き」を見せ、オオヤマザクラが新緑の葉と薄桃色の花をつけて、ようやく標高1000メートルの世界に春が訪れるのです。
夏の庭園は私たちの背丈を軽く超え、ゆうに2メートルはある草花で満たされます。その間を蝶やハチたちが採蜜のために飛び回っており、ふと気づくと、衣服や肌についた蜜を採取するために、蝶が身体に止まっている姿を目にするかも知れません。
6月中旬からは、高山植物として有名なエーデルワイスやコマクサの咲く花壇が見ものです。高嶺の花である花達に手軽に会いにこれることも魅力のひとつです。
初秋の9月にワタのように咲くフジバカマの蜜を求め、アサギマダラが花楽の里にやってきます。長距離の渡りをする珍しい蝶として有名なアサギマダラですが、遠くは広島や台湾などから、花楽の里でマーキングされた個体の報告が届きます。
ガーデンではオミナエシ系の植物やヒヨドリバナ系の植物が最盛期を迎え、すらりと美しく伸びた姿を優しい風に揺らしながら、黄金色の世界を形成します。花楽の里で最も優雅で、美しい一時の訪れです。
10月下旬から11月にかけて、植物たちは次世代の命を繋ぐため、花がら(シードヘッド)に無数のタネをたくわえます。タネは鳥や虫や風に運ばれ、次の春には私たちの思いもよらぬところに、その命の花を咲かせていくことでしょう。
庭園からカラフルな色彩はナリをひそめ、キラキラと輝く綿毛の白銀色と、朝晩の寒暖差がもたらす鮮やかな赤褐色の世界が一面に広がるこの時季は、知る人ぞ知るもうひとつの見頃です。この時季が過ぎると、山の上は3か月間の冬季休園となります。